Interview: Nicolas Zanoni - 素材を極限で操るデザイン

Interview: Nicolas Zanoni - 素材を極限で操るデザイン

パリ生まれでアルゼンチンのルーツを持つデザイナー、ニコラ・ザノーニはブリュッセルを拠点とするデザイナー。素材の可能性を探求し、既視感と驚きを同時に呼び起こす作品を生み出している。機能性と象徴性のバランスを取りながら、実用的なニーズを満たしつつ、鑑賞者の感情を揺さぶる作品を通じて独自のデザインを展開。

まずは、ご自身の経歴と活動について教えてください。

私の名前はニコラ・ザノーニと言います。フランスのパリで生まれましたが、父親ははアルゼンチン出身です。18歳までパリに住み、その後はブリュッセルに移り、ラ・カンブルで工業デザインを学びました。オブジェクトデザインと製作についての基礎を固める中で、完成品よりも、研究や実験、そして課題解決そのものに強く惹かれるようになりました。

ブリュッセルで大学院を卒業してからは、研究を続けながら作品を発表するようになり、それが現在の活動につながっています。今でも、研究と開発を常に意識しながらデザインに取り組んでいます。

どのような環境で育ったかについて教えていただけますか?

パリで育ちましたので、そこで子供時代と青年時代をすべて過ごしました。パリは私の遊び場のような場所でしたが、大きくなることにつれて、新しい環境と出会いを求めていた自分もいました。そのような心境の中、ブリュッセルは、当時まだ若者であった自分の視野を広げてくれた都市と思っています。現在、パリとブリュッセルの間で生活していますが、スタジオはブリュッセルにあります。

また、幼い頃から頻繁に訪れるていたこと、家族全員が今でもそこに住んでいることもあり、アルゼンチン系のルーツを非常に誇りに思っています。アートなどに関する嗜好を共有できる人達がたくさんいるのでブエノスアイレスに戻るのは大好きです。街自体が私にとって大きなインスピレーションです。

幼少期にスケートボードをやっていたようですね。その経験をデザインに活かしているようですが、育った環境が現在の活動やデザインのアプローチにどのように影響を与えていると思いますか?

幼い頃から、スケートボード、ローラースケート、スケートパークの世界に浸っていました。スケートボードはあまり練習していませんでしたが、フリースタイルバイク(FGFS)には完全に没頭していました。私の日常でしたね!

当時のその興味が私の性格の一部を形成し、それが現在私の作品、特に作品のユーモラスで遊び心のあるタッチに反映されていると思います。美的感覚にも影響していると思いますね。機械加工されたアルマイト処理された自転車部品や、そこに存在する特定のネジや技術的な詳細にとても惹かれています。デザインを非常に真剣に取り組んでいますが、同時に、自分を押し上げる方法としても見ています。スケートボードでトリックを成功させるようなものかもしれないです。何度も挑戦し、成功することもあれば、失敗することもありますが、最終的には楽しむことがすべてです!



ザノーニさんの作品は愛着を育むような要素があるように感じるのですが、もしかしたら、人々がよく使い慣れた素材を予想外の方法で変形させているからかもしれません。工業的な素材を通じて既視感を覚えさせる一方で、手作りの外観を通じて貴重さを感じさせているのかもと思いました。たとえば、以前は発泡スチロールを燃やして家具をデザインされましたね。このアプローチはご自身のデザインで重視されていますか?

素材は間違いなく私のデザインの軸です。各素材の可能性を探求し、驚くべき結果を生み出すのが大好きです。実験は私のプロセスの核心であり、それがしばしば予期しない結果につながります。興味を持っているのは、期待と遊び、なじみの素材を変形させて異なる反応、新しい視点を引き起こすことだと思います。

必ずしも、私の作品を、従来的な意味で「貴重」にしようとしているわけではありません。時には、不安の感情をあえて誘ったり、反感さえ覚えるような形や質感に到達することもあります。しかし、最も魅力的だと思うのは、素材を扱う努力、つまり「クラフト」する努力が、それに一定の価値を与えることです。ある種の素材に対する私たちが持ってしまっている固定的なイメージで遊びながら、他の場面で適用されることが多いプロセスを用いるのが好きです。例えば、最近ですと、ハンマーとノミを使ってプレスした発泡スチロールシートを彫りました。

工業的な素材は数えきれないほど存在しますが、素材選びはどのようにされているのですか?

素材を選ぶための絶対に取るプロセスは特にないですね。むしろ直感に任せています。各素材が持つテクスチャ、形、またはあらゆる加工に対する反応の質の観点から工業用または日常的な素材に引き付けられることがよくあります。特に興味をそそられるのは、一見平凡に見えるかもしれないが、実験を通じて驚くべき性質を明らかにする素材ですね。

あるモノが本来の機能を持っている中で、それを完全に予想外の物に変える可能性との矛盾に魅了されます。延展性、変形能力やある処理により表面が面白く反応するような特性を求めている気がします。要するに、一般的な限界を超えて何か新しいものを明らかにできる素材を探しています。

以前ザノーニさんがInstagramで、実験がプロジェクトの最も好きな部分であると読みました。作品を作る際には、通常どのようなプロセスに従いますか?

確かにどのプロジェクトでも、実験は本当に最も好きな部分です。いつも曖昧なアイデアや直感から始まりますので、非常に正確なビジョンから始まることはありませんね。予期しないことの余地をたくさん残すのが好きなので。素材の反応や実験プロセスに導かれながら、色々試すことによって、予想外の形状や概念が生まれます。スタジオで本能的に色んなことを試している時間最も幸せです。

時によっては、あるアイデアから始めることもありますが、その場合であっても、すぐに実験に飛び込みます。それをしなければ、形を取り始める感覚が生まれないからだと思います。さまざまな加工方法を試して、材料の限界まで押し上げて反応を見る。このやり方を通じて、作品や小さなコレクションが生まれますが、実験があることによって、また他の新しいアイデアが思い付きます。

ザノーニさんの作品は、家具と彫刻の交差点にあるように見えます。一方では、機能が最重要であり、他方では、象徴主義が鍵となることが多いと言えます。どちらの側面にも興味があるのですか?


確かに、私の作品は家具と彫刻の交差点にあります。機能的な側面は常に存在しますが、それを絶対に必要な条件とは考えていません。何よりも興味を持っているのは、素材の探求と、それがどのように感情や概念を呼び起こすことができるかです。なので、どちらかというと、象徴主義は私のプロセスの要になります。

とはいえ、機能性と象徴主義のどちらかを選ぶつもりはありません。それらが共存し、互いに影響を与え合う2つの側面であると思っています。時には、純粋に彫刻的なアイデアから作品が生まれつつも、ある機能を与えることによって、新しい意味のレイヤーを追加する方法となる。時によっては、機能が形態を導くことももちろんありますが、自分の芸術的な嗜好から切り離すことはありません。この2つ極端間の対話が私のやっていることの核心です。機能を表現の言語、媒体とみなしています。現時点では、機能を持たせる重要性に従う姿勢を持ちがちですが、時には本能的に機能性を全無視することもあります。


可愛らしさとある種の冷たさを兼ね備えている作品が多い気がします。たとえば『Spinner』のシリーズでは、ローラースケートとステンレススチールを組み合わせて、そのバランスを実現したように見えます。このアプローチは意図的に目指しているものですか?

興味深いですね!私の作品は私自身を反映していると思っていますが、私は性格的に「真面目であること」と「ふざけていること」の境界線を行き来するのが好きです。仕事はもちろんを非常に真剣に受け止めている中で、アイロニーやユーモアを加えることが不可欠です。

このコントラストで遊ぶことによって、異なる観点から知覚できる作品を作ることを目指しています。軽く遊び心があるだけでなく、思慮深く象徴的でもある作品。真面目さと軽さを混ぜることによって、デザインをよりアクセシブルにできるとと思います。

 


ザノーニさんの日常・生活と作品の間に、微妙な関係があるように感じました。たとえば、スケートボードクライミング喫煙に関連するリファレンスが含まれている作品がありますね。個人的な経験を引き出すことによってユニークな作品が生まれる可能性についてどのよう考えていますか?

まさにそうですね。個人的な経験を生かすことは、ユニークな作品を作り出すことに対して、とても頼れる方法だと思います。私が日常的に経験することは、自然と作品作りを影響しています。私が日々やること・考えることは、当たり前ですが、私のアイデンティティの一部であり、作品の視覚的な語彙に反映されているでしょう。個人的な生活の要素を作品に取り入れると、誰もがすぐに感じられる誠実さを入れ込むことができると信じています。

 


日常を共有している人達や一緒に作業をしている人達からインスピレーションをもらうことはありますか?

ラッキーなことに現在住んでいるブリュッセルはアート系のコミュニティがとてもアクティブです。共同スタジオで以前制作していたのですが、他のアーティストから強い影響とインスピレーションを受けてきました。ポジティブであれ批判的であれ、自分の実践に対するフィードバックはとても重宝しています。今はEspace Aygotouche-toucheOri Orisunという3つのコレクティブとスタジオを共有しています。尊敬する人々に囲まれることは、大きなインスピレーションでありながら、モチベーションの源です。

仕事中やプライベートでどのような音楽を聴かれているのかが気になります。お気に入りの曲を教えてもらえますか?

もちろんです!プレイリストをシェアしますね。良く聴いてる順です!


現在最終段階にある新作について少しだけ教えてもらえますか?

最近、とてもポジティブに取り組んでいるプロジェクトの1つは、とても大切にしているデザイナーの仲間たちとブリュッセルにワークショップスペースを開設することです。まだまだ初期段階ですが、スペースをパーソナライズして訪問者がアクセスできるようにするためのアイデアがたくさんあります。もっと進んだ段階になったタイミングに、詳細を共有できることを楽しみにしています!

Nicolas Zanoni

Interviewer

Tsukasa Tanimoto

 

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