
Interview: Maria Foerlev of ETAGE PROJECTS -境界を超えたアートとデザインの新たな表現-
マリア・フォーレヴ(Maria Foerlev)は、コペンハーゲンにあるギャラリーEtage Projectsの創設者で、アートとデザインを独自に融合させるスタイルで広く知られています。彼女は美術と建築を学んだ後、コンセプチュアルデザインに強い興味を持つようになり、Etage Projectsを設立しました。彼女の独創的なキュレーションによって形作られたこのギャラリーは、デンマークだけでなく国際的にも高く評価されており、アートとデザインの境界を超えるアーティストやデザイナーと協力しながら、常に新しく魅力的な体験を提供し続けています。
どのようにしてEtage Projectsを始められたのでしょうか?また、それ以前にギャラリーやキュレーションの仕事の経験はありましたか?
私はロンドンのサザビーズ美術学院で美術と装飾芸術を学びました。その後、コペンハーゲンで建築を学びましたが、途中で中退し、小さなギャラリーを開いて絵画や写真を展示していました。その後、数年間南アフリカに移り住み、帰国したときには次にやりたい事が見つからない時期がありました。そんな中、アイントホーフェンのデザイナーと出会い、彼らが実践するコンセプチュアルデザインに非常に強く惹かれました。そして10年前にEtage Projectsを設立し、それ以来ギャラリーは私自身のライフワークとして、展示物とそれを見て頂ける観客の間に新たな対話を生み出すことを目指しています。

マリアさんの祖父の家は建築家アルネ・ヤコブセンによって建てられたと伺いましたが、その環境がアートやデザインへの興味にどんな影響を与えましたか?
はい、今も父がその家に住んでいます。古い美しい木造の梁の家とつながっていて、アルネ・ヤコブセンの機能主義とは対照的です。もともとその土地にあった木造の家を、アルネは取り壊そうとしましたが、祖父が拒否しました。インテリアは古いものと新しいものが混在しており、ネオンライトとクラシックな絵画が並んでいます。そこから学んだ事といえば、私たちは身の回りに置くものから大きく影響をうけるという事です。その意味では色やスタイルの調和ではなく、感情的な価値が大事だと思っています。

Etage Projectsはアートとデザインの境界を曖昧にしたアプローチで作品を展示されていますが、キュレーションをされる際に作品はどのような基準で選定されているのでしょうか?
コンセプチュアルなビジョンを日常的なものへと変換した作品に魅力を感じます。コンセプト主導のクリエイターによる新作や限定作品の展示を企画し、彼らとクライアントをつなぐ役割を担っています。機能的な作品を作るアーティストや、独創的なデザイナーと共に新しい価値を生み出しており、その価値はただ見ているだけでは味わえない特別な体験に基づいています。そこで重視するのは、美学が私たちにどう影響を与え、アイデアがどのように美的表現に変わるかです。
私たちは、アートやデザイン、建築を特定のフィルターを通さずに受け取りますが、理解したいという欲求がカテゴリーや定義を作っています。私が目指すのは、ユーザーと作品のをつなぐ物語を作る事です。アートかデザインかは重要ではなく、心を動かし、感動を生むことこそが本質だと思います。


エタージュ・プロジェクトで特に印象深い展示やプロジェクトがあれば、ぜひ教えてください。
常にその時行っている展示がそうであることを目指しています。現在は2つの展示を開催しています。1つ目はカール・モニーズによる「MACRO」、もう1つはアーティストのFOSによる「Drugged Ornaments」です。

カール・モニーズの「Bonum Lumen」は、神秘的で魅力的な存在であるキノコを讃える作品で、キノコが持つ向精神的な特性にインスピレーションを受けています。例えば、生物発光や、内面的な気づきが外面的な啓発として表現されることを表しています。しかし、これはバランスや二元性といった概念にも関心を寄せた結果でもあります。現代の私たちが、大小、上下、湿ったものと乾いたもの、冷たいものと暖かいもの、内と外、オンとオフなど、二つの対立する要素の間でバランスを取ろうとしているように、バランスは常に重要なテーマです。
彼の作品はいつも実験や試作、あるいはスケッチのようなもので、作品が「活性化」されたときに初めてその本来の機能を発揮します。これらのランプも、さまざまな環境に置かれることで変化し、適応し、発展していくことが意図されています。自然の中で自然そのものを照らすことが目標であり、そのためにギャラリーの展示スペースには森の床を模した環境を再現しています。
「Drugged Ornaments」では、デンマークのアーティストFOSが20脚の椅子のキャンバス座面にそれぞれ手描きのデザインを施しました。どれも一つひとつがユニークで、アーティストの表現が詰まった作品です。
「骨に肉がぶら下がり 柔らかい組織と硬い骨、まるで椅子のように 血はその構造を流れ 骨は椅子に沈み、酔いしれて さあ、祝おう」
-FOS-


アーティストやデザイナーとのコラボレーションはどのように進められていますか?また、多様なクリエイターとの仕事で特にやりがいはどういったところで感じられますか?
幸運なことに、10年前に一緒に仕事を始めた人たちと、今でも関わり続けています。アートとデザインの境界にこだわらない姿勢が、彼らとのつながりを生んだのだと思います。長年ともに成長し、常にクリエイティブなアイデアを交換できることは、本当に幸せです。同時に、新しい才能を見つけることも大切にしており、何かに専念して作品作りに取り組む方々との出会いも大事にしています。

伝統的なデンマークデザインに新しい視点を提示するギャラリーとして、コペンハーゲンの現代アートやデザイン文化の中で、どのような役割を果たしていると考えますか?
デンマークはデザインカルチャーで知られており、形と機能のバランスが取れた美学が特徴です。その一方で、私はもっと直感的で非合理的な面に注目し、異なる美的要素を組み合わせることで、学際的で多様な文化に貢献したいと考えています。
私にとって、Etage Projectsは個人的なプロジェクトです。私自身の美的感覚や芸術的な好みに合う作品を展示しており、特定の地域にこだわらずにいます。
アジアのアート、デザイン、工芸の文化についてのどういった印象をお持ちでしょうか?
アジアの伝統工芸には深い関心を持っています。長い歴史の中で守られてきた細部へのこだわりが、究極の形にまで最適化されていると感じます。長く使い続けられるように作られた工芸品は、まさに今の時代に求められるものだと思います。
エタージュ・プロジェクトの今後について教えてください。また、どのようなプロジェクトに取り組みたいと考えていますか?
実は、アジアで活躍するアーティストやデザイナーを紹介したいと考えていました。ただ、まだそういった人たちとの接点が少なく、良い関係を築けるプラットフォームを見つけられていないのが現状です。
また、インテリア全体を作るのが好きなので、単に一つのオブジェクトを置くのではなく、空間全体の雰囲気をデザインしたいと思っています。以前、ファッションブランドの店舗デザインに携わったことがありましたが、ブランドの核心を理解し、それを店舗のデザインに落とし込むことで、お客さんの体験をより意外性のあるものにすることができ、とても面白い挑戦でした。
最後に、音楽の影響についてお伺いしたいと思います。最近聞いている音楽を教えていただけますか?
Glass Beamsの「Black Sand」、Sunni Colonの「Disko Mushroom」、Kendrick Lamarの「Not like Us」、Yin Yinの「Pingpxng」、Erika Baduの「Phone Down」、そしてRolling Stonesの「Gimme Shelter」が最近のお気に入りです。
