
Interview: Kwangho Lee -形を編む—素材が広げる創造の可能性-
韓国を拠点に活動するKwangho Leeは、革新的な素材の使い方や独自の手仕事によって生み出される作品とそのアプローチで高く評価されている。ワイヤーやPVC、ナイロンといった身近な素材を使い、機能性と芸術性を見事に融合させた作品を生み出している。農場で育った経験から、自然に手作業で作品を制作するようになり、伝統的手法と現代の製造技術の融合を追求している。彼のアプローチは実験的で直感的であり、コラボレーションや新しい素材との出会いを通じて、常に表現を進化させ続けている。
ご自身のバックグラウンドについて教えてください。また、それらの経験はどのようにアートやデザインへのアプローチに影響を与えましたか?
私の祖父母は農家で、いろいろな農作業をしていました。自分たちで道具を作って使ったり、育てた作物で料理をしたり、牛や鶏を飼っていたんです。そういった暮らしの中で多くを体験したことで、自分の手で何かを作ることがごく自然な行為になったんだと思います。材料を選んで、何を作るか考え、その作品に自分の感情や思いを込めるというプロセスは、祖父母がしていたことと本質的にはあまり変わらないように感じます。

Kwanghoさんの作品には、伝統的な韓国の工芸からインスピレーションを受けた要素があると感じますが、作品作りにおいてどのようなアプローチをされていますか?
実は、これまで自分の作品で伝統工芸について言及したことはありません。ただ、素材に対して誠実に向き合って制作したいと話しているだけです。私は伝統に従うつもりはなく、素材との対話のほうが大事だと考えています。手を使って何かを作るという行為そのものが、私にとって一番面白いと感じるところなんです。だからこそ、時には私の作品が工芸的であり、手間のかかるものに見えるのかもしれませんね。
KwanghoさんのPVCやナイロンを編み込む独自の技法は非常にユニークで、金属を使用した作品も含め、常に進化しているように感じます。これらの素材に対する向き合い方は、これまでどのように変化してきましたか?
特定の素材を使い続けながらも、常に自分に合った方法を探しています。言い換えれば、まだプロセスの途中にいるということです。ワイヤーやロープを鍵編みした作品は2016年から、金属の作業は2018年から取り組んでいます。これらの素材は自分の一部のように感じているので、一緒に成長しているような気がします。また、30年、40年後に自分と素材がどのように変化していくのかも考えています。


普段、スタジオでの一日はどのように過ごされていますか?また、製作活動をされるスペースが作るものにどのような影響を与えているかお聞かせください。
朝8時半頃にスタジオに行き、夕方6時に帰ります。スタッフと一緒にその日の作業を進めたり、新しいプロジェクトのスケッチを描いたりしています。時には友人たちが訪ねてくる事もあります。
ソウルには2つのスタジオがあり、それぞれ異なる広さです。小さなスペースでは小さな作品を、大きなスペースでは大きな作品を作っています。制作スペースの大きさによって、作品のサイズも自然と変わってきます。
また、どんな時に音楽を聴かれていますか?Kwanghoさんにとって、音楽とはどのような存在ですか?また、お好きな音楽や曲についてもぜひ教えてください。
音楽はいつも身近な存在です。特にこだわったジャンルはなく、作業中はさまざまな音楽を楽しんでいます。
運転中に音楽を聴くのも好きで、自分で選ぶというより、ラジオからお気に入りの曲が流れてくると、まるで映画の主人公になった気分になります。
小さい頃から映画を観るのが好きで、サウンドトラックを聴くことも楽しんでいました。映画を見る前にサウンドトラックを聴いたり、見た後に改めて聴いたりします。映画のシーンに合った音楽を楽しむのが好きです。
最近観た映画の中では、ヴィム・ヴェンダースの『パーフェクト・デイズ』のサウンドトラックが特に素晴らしかったと思います。
Kwanghoさんは、これまでにSalon 94 Design, Hem, Tajimi Tiles, Wekinoなどと、様々なブランドやギャラリーと作品を手がけてこられました。こういったコラボレーションに対して、どのように取り組みまれていますか?
私は色々な形でのコラボレーションが好きです。共同作業を通じて、経験や試みを重ねることで、自分の考えが少しずつ固まっていくと感じています。視野が広がり、思考の深さが変わり、新しい出会いを通じて良い思い出も増えていきます。

これまで手がけた作品の中には、インスタレーションのような大規模なものもありますが、家具や小物のような親密な作品を制作する際のアプローチにはどのような違いがありますか?
アプローチ自体はあまり変わらないと思います。作るものは自分を表現していると感じていて、国としての存在は変わらないものの、作品は置かれる空間によって変化できると考えています。小さなもの、大きなもの、広いもの、高いもの、あるいは見えないものでも、それぞれの特徴を活かすようにしています。

韓国のブランド、Wekinoの最新作であるPirouette Shelfは、独特な彫刻的存在感を持っていますが、このプロジェクトはどのようにして始まったのでしょうか?
2015年にPhaidon Publishingとのプロジェクトを行った際に制作した棚を元に、今回Wekinoと共にプロダクトとして改めて開発をしていきました。お互いに多くのコミュニケーションをとることで、良いプロセスが生まれたと思います。
元となる作品『The Moment of Eclipse』は、家具としての機能を意図して作ったものではなく、日食と月食の物語を形にしたものです。そういった意味では、すべての作品の用途を決めているわけではなく、他人との交流を通じて、さまざまな使い方を楽しむことが大切だと思います。制作を通じて、自分の考え方や姿勢がより柔軟になることを常に意識しています。
Photo by Satoshi Nagare