
Interview: Tim Teven Studio - 曾祖父から受け継ぐ金属への愛着
オランダ・アイントホーフェンを拠点とする ティム・テヴェン(Tim Teven)は、Design Academy Eindhovenを卒業後、自身のスタジオを設立。技術と素材を重視しているアプローチを応用し、実際に手を動かして実験し、素材を従来とは異なる方法で扱うことを特徴としている。制作過程そのものを最終的な成果の形や機能を決定するツールとして用いることが多く、機能的でありながら魅力的なオブジェを生み出している。2018年に設立したスタジオでは、産業技術と革新的なデザイン手法を融合させた作品を制作しており、ご家族の家業であった鍛冶屋の伝統を受け継いでいる。
ご自身の経歴と活動について教えてください。
2018年にDesign Academy Eindhovenを卒業し、卒業以来アイントホーフェンでスタジオを構えています。私の作品は常に、生産技術の領域内での素材の実験を中心に展開しています。特に、金属の変形は、デザインツールとして非常に興味を持っています。実は、私の家系は鍛冶屋なのです。曾祖父が鍛冶屋で、代々その仕事を継いでいました。今では、私自身がコレクターズアイテムやインテリアデザインの分野で、金属への愛着と技術を追求しています。
現在は、同じ素材と技法で作られたオブジェのコレクションを広げるために、Tubeシリーズの開発に取り組んでいます。また、シグネチャーピースを作るために他のデザイナーやファッションブランドとコラボレーションすることがとても好きです。最近では、Flora Lechnerさんと一緒に『TF V1-05 Ultra Dust』というゴミ箱を作ったり、Stone Island、RIMOWA そしてARTEなどの様々なプロジェクトでコラボレーションしてきました。このようなコラボレーションはいつもとても興味を持っているので、今後もさらに増えてくることを願っています。その一方で、インテリアデザインの方向にも力を入れていきたいと思っています。現在もいくつかのインテリアプロジェクトに取り組んでいますが、将来的には、自分の手書きと素材の技術で空間全体をデザインできるような、より多くのインテリアプロジェクトを手掛けられるようになりたいと思っています。
若い頃からデザイナーになる運命だったと感じますか?
若い頃からデザイナーになりたいと思っていました。子供の頃から何かを作るのが大好きでした。現在は、金属を使っていて、ある意味では家族の伝統の足跡を歩んでいるような気もしますが、どちらかというと偶然のようにも気がします。大きな影響だったと言うのは論理的ですが、気づかないうちにそうなっただけです。
Tubeシリーズの背景にはどのようなストーリーがあるのでしょうか?
素材のような半製品のような鉄パイプをどのように使って面白いオブジェを作れるかが出発点でした。変形の技術を使って、興味深い形状を作り出し、同時に様々な作品を作るためのシステムを手に入れることができました。初めて制作したのが『Tube Bench』なのですが、シリーズ全体で見ると、この出発点自体はあまり重要ではなくなりました。
つまり、形状は、一連の機械的動作によるチューブの変形という、私が使っている技術の直接的な結果です。私は素材の特性と生じる形状の変形を利用して、機能的な作品へと変換させています。その結果、技術的・機械的な所作が、自ずから生み出される美しさへと変換されます。 あらゆるディテールをデザインすることと、偶発的な結果との境界線を曖昧にしています。作品は、機械的と手で作られた所作の相互作用を示しています。
Flora Manon Lechnerさんとのコラボレーションで生まれた『TF V1-05 Ultra Dust』ですが、このコラボレーションはどのような経緯で始まったのでしょうか?
Floraさんとのコラボレーションが始まったのは、『The Alligator and the Bird』という展覧会に共に出展したことがきっかけです。展覧会のテーマは共生関係でして、ペアで作品を出展するグループ展でした。Floraさんと私は、ゴミ箱、ほうき、ちり取りというセットの道具を思いつきました。というのも、これらの一連の道具は、互いに機能させるために必要だからです。ほうきがなければちり取りは役に立たないし、その逆もまた同じです。それとは別に、通常はあまり見栄えが良くないか、デザインされていないので、これらのような道具をデザインして作ることは興味深いことだと思いました。
将来的にシリーズを広げるために、一緒にさらに多くの清掃用具を作ることを考えています。
そのうえ、お互いの形態に対する価値観がうまく合っていると思うので、今後もコラボレーションを続けていく予定です。最近では、ブリュッセルのCOLLECTIBLEで一緒に作品を展示しました。私のTubeシリーズの作品と一緒に、Floraさんは自身の新しいランプのコレクションを展示しました。
作品のほとんどが特定のニーズに応える機能を持っていますが、機能的なニーズを満たすことは、あなたの作品の不可欠な側面だと考えていますか?
決して機能性が不可欠だとは思っていませんが、オブジェクトに機能を持たせることは私のデザインプロセスの一部です。 私は素材の実験を出発点として制作をしています。 実験から興味深い形状やディテールが生まれたら、そのディテールや形状をいかにして機能的に使えるかを考え始めます。そして、最終的な成果物に目的を持たせるのです。
一方で、機能の境界線で遊ぶことも面白いと思っています。『TF V1-05 Ultra Dust』に見られるように、独創的なデザインでも機能を果たすことはできるのです。

デザインプロセスにおいて、実験と実用性のバランスを取るのはどのようにしているのですか?
なかなか難しい質問ですね(笑)。正直に言うと、そこまで深く考えていません。プロセスの中では、美しさと機能性のバランスを見つけるようにしています。そして、先程話したように、このバランスをいじることをとても面白く感じます。機能と抽象の境界を探したり、遊んだりすることが楽しいですね。

金属に対して特別な愛着を持っていらっしゃるようですが、金属を扱うようになったのはいつ頃からですか?
生まれ育った環境がそうさせたのかもしれませんね。小さい頃からずっと金属に囲まれて育ちました。子供の頃は、毎週土曜日に、 道具や廃材をいじったりして父親の鉄工所で遊んでいました。 なので、自分にとっては計画せずにこうなったような感覚です。 現在は自分のやり方で家族の金属加工の伝統を継承していくことをとても誇りに思っています。

金属を使い続けるつもりですか? それとも他の素材にも興味がありますか?
金属への愛着は永遠に続くと思います。その一方で、他の素材そのものに全体的に非常に興味があります。今すぐ取り組む予定のある他の素材はありませんがしガラス、粘土、レンガ、テキスタイル、木材などに興味があります。

作品制作にあたって、職人さんと一緒に仕事をされていると思いますが、職人さんとの関係はどのようなものですか?
実は、作業の大半はスタジオで自分自身で行っています。スタジオでは、学生たちと一緒に作業をしてくれていて、デザインプロセスの最初から最後までアシストしてもらっています。
外注する作業は主に、完成品の表面仕上げです。表面仕上げは作品の非常に重要な要素であり、常に新しい技法を見つけたり、既存の技法で実験をして、既成概念にとらわれない仕上げを目指しています。
そのため、亜鉛メッキ、クロムメッキ、アルマイト処理、粉体塗装などを専門とする地元の金属仕上加工企業と協力しています。例えば、電気亜鉛メッキのパスベーションと組み合わせて熱亜鉛メッキを試みています。例えば、亜鉛メッキでは、特定の色を実現するために多くの実験を共に行いました。また、パウダーコーティングを混ぜたり重ね塗りしたりして、既成概念にとらわれない色合いを出すことも試みました。『Tube Table』の半透明の赤がその結果になります。
将来、一緒に仕事をしてみたい職人さんや使ってみたい技術はありますか?
職人さんや技術よりかは、工業製品を生産する企業とコラボレーションしてみたいですね。現在、アルミ押出材を生産している企業とやり取りをしていて、彼らの生産技術を使って実験的なことができないか検討しています。
とにかく、金属仕上加工技術で実験してみたいという気持ちは常にあります。その他では、最近レンガ工場を見学して、レンガ作りの技術を使って面白い作品が作れないかと一緒にコラボレーションできないかと、とても熱が入りました。
また、最近東京在住の日本人デザイナーと出会い、日本の伝統工芸技術をリサーチして、日本の職人に制作をお願いし、日本の市場向けのシリーズを作れないか話していました。やってみたいことの一つであり、きっと多くのことを学べると思います。
仕事中やプライベートでどのような音楽を聴かれているのかが気になります。お気に入りの曲を教えてもらえますか?
変に聞こえるかもしれませんが、音楽が大好きなのですが、なぜか仕事中はあまり聴かないんです。仕事以外では、ジャズからヒップホップ、エレクトロニックミュージックまで幅広いジャンルの音楽を聴きます。できれば少し実験的で前衛的なものが好きです。常に新しい音楽を探し求めていたのですが、最近仕事に集中しすぎて、なかなかそういう余裕がなくなってしまったんです。いつかまた音楽探しができるようになればと思っています。
日本のデザイナーや文化で、ご自身の仕事にインスピレーションを与えたものはありますか?
特に一人の名前を挙げるわけではありませんが、日本のファッションはとても好きです。特に三宅一生氏の作品にはとても感銘を受けています。技法をツールとしてデザインに取り入れているので、自分の仕事と少し重なる部分がある気がします。本当に素晴らしい仕事だと思います。
アイントホーフェンを拠点に活動されていますが、仕事をする上で大切としている場所ですか?
それほど重要ではないですね。学生時代にアイントホーフェンで学んでそのままスタジオをここに構えました。デザイナーとしての活動拠点を立ち上げるには良い場所ですし、デザイナー同士のコミュニティもあって刺激的です。それに、毎年開催されるDutch Design Weekは作品を発表する絶好の機会です。そういった点では恵まれた環境ですが、仕事内容そのものに直接的な影響を与えるような場所ではないですね。
現在最終段階にある新作について少しだけ教えてもらえますか?
実は、ずっと試作を重ねてきた表面仕上げ技法を応用したシリーズを制作中です。