Interview: Kasper Kyster -ニュー・クラフト:伝統と革新の融合-

Interview: Kasper Kyster -ニュー・クラフト:伝統と革新の融合-

デンマークを拠点にするデザイナー、カスパー・キスター(Kasper Kyster)は、その革新的な家具をデザインする側、若手デザイナーを支援するUkurant(オークラント)の創設者の一員としてキュレーションも行うなどで幅広く活躍しています。デンマークのThe Royal Design Academyの家具デザイン学科で修士号を取得してからも、自らの手で家具を作る事にこだわり、今年の3 Days of Designでは初の個展も開催しました。彼の作品は機能性と美しさを巧みに融合させ、素材の実験からデザインを生み出しています。その現代的なクラフトへのアプローチは、まさに伝統と革新の融合を反映しており、新たなデザインの価値観へと繋げています。

作品を作る過程において、どのような意識でデザインをされていますか?

作品作りにおいて重要なのは、単に美的感覚だけで作るのではなく、コンセプトと機能性を追求していく事だと思います。一般的な表現をすれば、”Form follows function”,「形態は機能に従う」ということです。例えば、Crafting Plasticの家具の美しさは、作品を作るプロセスから来るものです。すべては、「家具として機能するプラスチック」というコンセプトを考え出すことから始まりました。そこには、単に美しいものを作るだけでなく、機能性も必要だという思いがあります。プラスチックの家具に実際に座れるのかとよく聞かれますが、もちろん座れます。私が作る家具は全て実際に使えるのは、そもそも家具は機能的であるべきだと思うからです。

The Royal Danish Academyで学んだ経験についても教えてください。

他の地域のデザイン教育に詳しいわけではありませんが、私が学んだコペンハーゲンでは個人の自由度が高いと感じます。毎週の授業やプレゼンテーションはもちろんありましたが、それに費やす時間自体は少なかったです。学校の施設では、色々なものづくりができるスペースやワークショップも充実していました。ものづくりに特化した環境で学べたおかげで、私自身成長することができました。

同時に、自分の手で作る事の重要性も実感しました。言うならば、それが最も重要なことなんだと思います。材料や技術を自ら体験しなければ、本当に理解することはできません。デジタルを通じてではなく、実際に手を動かし体験することが必要です。椅子のプロトタイプを作る場合、コンピューターの画面上では良く見えても、実物ではそうでないことが多々あります。家具の寸法やプロポーションを正確にするためには、実物大の模型を作る必要があります。そして、これを繰り返すことで上達していくものだと思います。


The Master Collection

デンマークでは、過去の世代が築いた伝統を守りつつ、新しい価値観や手法を取り入れていくデザインムーブメントが注目されています。その中で、自身の作品も伝統を取り入れる事は意識されていますか?

はい、むしろ取り入れないことはできないと思います。私自身、デンマークの伝統的な歴史のある文化の中で生まれ育ちました。デンマークに住んでいると、デザインは至る所に存在しており、その影響を受けざる追えません。作品に意識的に取り入れているとは言いませんが、影響を受けているのは確かです。デンマークのデザインを定義付けるのであれば、それは『形態は機能に従う』をコンセプトに、優れた職人技によって作れられる純粋なものづくりであり、まさに私が取り組んでいる事でもあります。

冒頭でも話にあったCrafting Plasticの家具は、今年の3 Days of Designで自身の初めての個展として展示されたものでもあります。これらの家具は、私たちのプラスチックの資材の見方をどう変えてくれるのか、その背景にある考えをお聞かせください。

プラスチックという、日常的に見慣れている工業的な素材を全く違った形で見せることが目的でした。ほとんどのプラスチック製品は量産するため、射出成型されており、製造には数秒しかかかりません。しかし、Crafting Plasticでは、プラスチックを完全に手作業で加工するといった、全く異なる方法を使っています。量産では見受けられない、非常にシンプルな方法で加工していますが、その結果全く新しいものができました。それにより作られた美しい様々な形は、普段は価値のあるものと見られない素材に、新しい価値を与えるかもしれません。

デザイナーとしての活動に加えて、Ukurantではキュレーターとしての活動もされていますね。Ukurantがどのように始まり、その活動の核心となる価値観について教えてください。

Ukurantは、実験的なデザインをする若手デザイナーを中心に展示をするプラットフォームであり、コミュニティです。作品を応募してもらい、毎年行われる3 Days of Designの期間中にキュレーションされた作品を展示しています。Ukurantの始まりは、大学在学中に私と3人のクラスメートが3 Days of Designの期間中に自分たちの作品を展示したいと思った事をきっかけとして広まっていきました。当初、Ukurantがどうあるべきかについてのマニフェストを作成しました。その中では、「Ukurantは芸術的であり商業的な活動である」、「過去と未来を結びつけるデザインを提示する」、「若手デザイナーによって設立され、若いデザイナーのためにある」といった文言を掲げています。

Ukurant 3, exhibition at 3 Days of Design. Photo by Peter William Vinther
Ukurant Perspectives, exhibited at 3 Days of Design. Supported by Muuto, exhibition design by Frederik Gustav. Photo by Jonas Jacob Svensson
 
これからデザイナーを目指す人たちにアドバイスをいただけますか?

実験する事を続けてみてください。他人から言われることではなく、自分が楽しいと思うことをしてください。そして、大きな夢を持つ事が大事だと思います。やり方はいくらでもあるし、一人一人の道があります。

最後に、New Scaleでは各クリエイターにお気に入りの音楽と、音楽がどのように影響を与えるかを伺っています。是非、お気に入りの曲をいくつか教えてください。

最近だとデンマーク語の音楽をたくさん聴いています。歌詞を聞いて、言葉をどのように変えて新しい意味を与えるかを聞くのが好きです。さらに新しい世代のアーティストたちは、以前は英語で音楽を作りたがっていた傾向はありましたが、今では母国語で音楽を作りたいと思っているようです。最近見つけたデンマーク出身の若手バンドの「APHACA」は、今の若者が感じている愛や不安をテーマにして、それをうまく言葉にして表現しています。ここでは、「Hjertet På Gaden」と「Våde Øjne」の2曲を紹介します。これらはデンマーク語で歌われていますが、歌詞は非常によく書かれていて、複雑な感情を言葉にするのが本当に上手だと思います。

Kasper Kyester
Web / Instagram

Interviewer
Yusho Nishioka

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