
Interview: Jamie Wolfond - モノが与えてくれる新しい価値を見つける
トロントを拠点に活動するデザイナー、ジェイミー・ウルフォン(Jamie Wolfond)は、家具デザインをベースに、機能と芸術的表現の両方を兼ね備えたオブジェクトを作り出す。予測不可能なデザインプロセスを肯定的に受け入れ、量産デザインから限定版の作品まで、状況に応じてさまざまな形態を生み出している。ウルフォンの作品は、モダニズムと手に入りやすい素材を融合させ、対話を促すデザインを生み出し続けている。
まずは、ご自身の経歴と活動について教えてください。
デザイナーです。家具デザインを学びましたが、実際にはいろんなジャンルのものをデザインするのが好きです。プロジェクトを選ぶ際にはA、「何をデザインするか」よりも、「どのようにデザインプロセスに取り組めるか」を重視しています。
スタジオを通じていくつかの活動を行っていますが、最も重要なのは製造業者とのデザインのライセンス契約です。ただ、予測不能なプロセスによって、面白さがあっても、大量生産には向かないものが生まれることもあります。そのような作品を発表する場として、展示会やリミテッドエディションの制作も行っています。
子供の頃の話を聞かせてください。家族からデザインへの関心に影響を受けましたか?
現在は育ったトロントに拠点を置いています。両親が幼い頃に離婚したため、母親と父親の家を行き来しながら育ちました。ただ、それぞれの家には継父母や兄弟姉妹がいて、常ににぎやかでした。
大きくて複雑な家族でしたが、特に手先が器用な人や物作りに興味がある人はいませんでした。だからこそ、私はそうしたことが得意な自分が好きだったと思います。家族から吸収したことは、クリエイティブな物事に対するモチベーションや「やり抜く力」だと思います。

Drape Light
以前、It’s Nice Thatのインタビューで『子供の頃から家具デザイナーになりたかった。もしその職業が存在しなかったとしても、自分で発明していただろう』と話されていました。幼少期にその情熱のきっかけとなった瞬間や出来事はありますか?
11歳のときだったと思います。学校の課題で電動ノコギリを使いたかったので、父が買ってくれて、ガレージで使いました。父が一人で使わせてくれたのが驚きだったことがいまだに覚えています。その後、自分の部屋用にモジュール式の収納ボックスを作りました。作るのには少し手伝いが必要でしたが、確かホームセンターでカットしてもらった気がします。作るのも楽しかったのですが、それ以上に配置を考えるのが面白かったんです。自分の力だけで、自分の空間に即座に大きな影響を与えられる。それが当時とても刺激的に感じました。
自身のスタジオを『designs useful objects(役に立つものをデザインする)』と定義していますが、『役に立つ』というのは人によってさまざまな意味を持ちます。ご自身にとって、その意味は何ですか?
ウェブサイトには「役に立つものをデザインし、ブランド・ギャラリー・インテリアデザイナーのためにアートワークを制作する」と書いています。あえて曖昧にすることで、ギャラリー向けに役立つものをデザインしたり、ブランド向けにアート作品を作ったりする余地が作りたかったのです。このようなカテゴリー化は実際あまり役に立たないと思っていますが、クライアントに活動内容を説明するために必要でした。
私がデザインするものにはすべて何らかの目的がありますが、既存のものよりその機能を優れたものにしようとは思っていません。最も明るい照明や、最も快適な椅子を作ることはできません。でも、もしそれだけが重要なら、私たちはすべてのものを一種類だけ持てば済むはずです。そうではなく、私は「ものが与えてくれる別の価値」に焦点を当てています。アートと同じように、私たちが身の回りに置く「役に立つもの」は、環境や物質文化について考えるきっかけを与えてくれると考えています。

Woven Bookshelf. Photo Credit: Kiosk.
『Woven Bookshelf』のように、Wolfondさんの作品は、本質だけを残し、不必要な要素や装飾を排除している印象があります。デザインにおいて『余計なもの』と『本質』の判断はどのように行っていますか?
ある意味、私は典型的なモダニストかもしれません。私の作品では「形は機能に従う」という考え方が基本にあります。ただし、その「機能」の定義は少し曖昧です。視点を表現することも、重要な機能のひとつだと考えています。
さらに、「機能」に対して柔軟でありたいと考えています。ある特定の「ニーズ」を満たすためにデザインした形が、あまりにも平凡で物語性のないものになってしまった場合は、その物の優先順位を見直し、より興味深い方向に調整することがあります。
Wolfondさんの作品の多くには、親しみやすく手に取りやすい素材や要素が取り入れられている印象を持ちます。『Set Lamp』について触れられた際に、『人とコミュニケーションをとるためには、認識しやすい要素が必要』と述べていました。この考えについてもう少し詳しく教えていただけますか?
その時は、みんなが認識できる物質的な文化の要素について話していました。どの言語を話していても、似たような金具や道具、素材には馴染みがあるでしょう。それらを意識的に使用すれば、言葉では伝えられない方法でコミュニケーションができると考えています。
とても手頃な価格のオブジェをデザインできたら素晴らしいと思いますが、最近の作品をただ安く作るだけでは難しいでしょう。何百万人もの人々の関心を引き、問題を解決できるオブジェをデザインするには、少し異なるアプローチが必要になると思います。
Set Lamp.
最初のデザインのインスピレーションはどこから得ることが多いですか?常にアイデアの記録を取っていますか?例えば、『Edition 002』では、都市環境の中にある繊維生地の写真が出発点になったように見えます。
実は、あの写真は、光(または光の代用物)を使って表面に永久的な跡を残す方法を何年も試行錯誤したプロセスを経て生まれたものです。すべてのアイデアはそれ以前のアイデアと深く結びついていると思うので、一つのプロジェクトの元となるインスピレーションを正確に突き止めるのは不可能だと思います。
インタビューしている方々によく好んでいる音楽を聞かせていただいます。仕事中やプライベートでどのような音楽を聴かれていますか?
最近はStephen Malkmusの『The Hard Quartet』をよく聴いています。
これまでにブレスレットや花瓶、ランプ、大型家具など、さまざまなスケールのオブジェをデザインされています。次に挑戦したい特定のオブジェはありますか?
Edition 002.
ちょうどスタジオを移転したばかりで、もっと棚が必要です。これまでに多くの棚を作ってきましたが、視覚的にも物理的にもかなり重厚なものが多かったんです。最も重い物を収納する棚を作るのは少し飽きてきたので、今は持っている物の中で最も軽いもの、例えば、紙の模型のための棚を作るのが楽しみです。
現在進行中のプロジェクトがあれば教えてください。
今年のミラノデザインウィークに向けて、SIMPLE FLAIRとの共同企画でグループ展を開催します。24のデザインスタジオが制作した時計の展示です。杖やトイレットペーパーホルダーなど、ある「タイポロジー」をテーマにしたデザイン展が近年人気ですが、私は時計というタイポロジーはとてもユニークだと思います。時計は計測器なのか、装飾品なのか、それともステータスシンボルなのか?その問いにとても興味があります。

Photo by Aaron Wynia.
Jamie Wolfond
Interviewer
Tsukasa Tanimoto