
Interview: Nicole McLaughlin - 廃棄物からファッション業界までをアップサイクル
ニューヨークを拠点とするニコール・マクラフリン(Nicole McLaughlin)は、Reebokでグラフィックデザイナーとして勤めたことによって、ファッション業界で用いられている製造方法やそれに伴う廃棄物に興味をもつ。独学で縫製などを学び、自身のスタジオを独立してからは、バレーボールをスリッパに、カメラバッグをブラレットに、ハリボーグミのパッケージをボードショーツへとアップサイクルをテーマにした作品を続々と作り上げる。ユーモアを交えた独創的な手法を用いながらも、持続可能性というメッセージを人々に鮮明に伝え、廃棄物問題やサステナブルデザインに対する意識改革に大きく貢献している。
ご自身の経歴と活動について教えてください。
ニコール・マクラフリン(Nicole McLaughlin)といいます。アップサイクルに特化したデザイナーです。 グラフィックデザインがバックグラウンドですが、過去5年間はアーティスト、デザイナー、ブランドコンサルタントとして活動してきました。キャリアは2016年、リーボックでグラフィックデザイナーとして働いたことから始まりました。 ファッション業界の大企業で働いていたことによって、衣料品や靴の製造方法にとても興味を持つようになりました。また、業界の内側にいたからこそ、生産過程内にどれだけの無駄があるのかということに気付かされました。不要になった靴や衣料品のサンプルを使って、解体して再構築することで、縫製方法を独学で覚えることができました。2019年に独立してからは、企業とコラボレーションやコンサルティングを行い、ブランドの余剰資材や返品商品、サンプルなどをどのように再利用できるかという解決策を一緒に見つける仕事をしています。
はじめて布もしくは他の素材を使って何かを作った体験は覚えていますか?
小学生の時、初めて素材を使って実験のようなことをした記憶があります。キッチンペーパーを使ってバービー人形やブラーツ人形の服を作っていましたね! それから13年が経った2017年に、DOVER STREET MARKETの包装紙を使ってシャツを作ったのですが、これが今の作品の原点となった初めての作品と思うと面白いですよね。
母親がインテリアデザイナー、父親が大工、祖父がエンジニアをされていたと過去のインタビューで読みましたが、ご家族の職業はあなたにどのような影響を与えたと思いますか?
間違いなく、今の活動は私の育ちや小さい頃の環境に大きく影響されていると思います。祖父も両親も問題解決をする仕事をしていたので、家族は私のデザインの歩みの中で大きな役割を果たしてくれました。
例えばですが、母が仕事に行く前に私を学校に送ってくれていたのですが、車内でオフィスチェアやいろんな絨毯のサンプルが詰まれている靴に囲まれていたことはいまだに覚えています。祖父に関しては、祖父の木工所でよく、簡単な木彫りを作っていました。 また、クランプに指を挟んでしまったことも鮮明に覚えています。その出来事があったおかげで、それ以降はそんなことはしていません(笑)
マクラフリンさんのデザインプロセスがとても気になります。アイデア出し、材料の調達、プロトタイピング、テストのような線形で構造化されたプロセスを辿っているのか?それとも、より自発的な実験の結果で作品は生まれるのですか?
両方ですね。時にはプロジェクトのアイデアが先にあり、それを実現するための必要な材料をどこで見つけれるのかという課題で始まります。時と場合によって、自分の家の中を探したり、リサイクルショップに行ったり、eBayで検索したり。その一方で、他の時には、材料が先にあり、その材料をより良く理解し、どのように変形させるのが最適かを決めるという過程で進むこともあります。
作品には、誰もが馴染みのあるアイテムを使うことが多い気がします。日常生活の中でアイデアやインスピレーションを探すために周囲に気を配っていますか?
日常生活の中で使っているものに意識を向けるように心がけています。「別の使い方ないかな?」と常に自分自身を問いかけています。といいつつも、誰もがそのコンセプトに共感しやすいという理由で、やはり馴染みのあるものに惹かれる傾向があります。また、あるモノが本来の目的や機能を果たせなくなった時、すぐに捨ててしまうこと多いので、 身の回りの物にはまだまだ可能性が残されているということを証明するのが大好きです。
マクラフリンさんの作品はご自身の観察や経験から得た断片的なシンボルや記憶のコラージュのように見ることができると思いますが、ご自身はそのように考えたことはありますか?
大変素敵な見方で、嬉しいです。 何かを生み出すことによって、その瞬間の記憶を永続させるという考え方は大好きです。
実は、ほとんどの人が私の作品について気づいていないのが、作品自体が記憶の塊だということなんです。 最終的な作品は、作った物体を記録した写真や動画であって、物体そのものではないんです。人々が私の作品をみる頃には、おそらくもう作品は分解されていると思う。
アップサイクルした作品を、さらにアップサイクルすることで、素材の可能性を広げられることを証明し続けています。
過去にFUTUREVVORLDのインタビューでユーモアを使って幅広い層にアピールし、会話のきっかけを作っていると話されていましたが。少し話が逸れてしまうかもしれませんが、SNS上でご自身と作品を共に写真で撮った投稿が多いので、作品自体とご自身のアイデンティティもしくは身体を結びつけることにとても抵抗がないように見えます。この関連性をどのように捉えていますか? もしかしてユーモアを使うことと何か通じる部分があるのでしょうか?
ユーモアは、幅広い層に作品を届ける手段として欠かせないものと捉えています。自分の作品が人々を笑わせたり、結びつけたりできることをとても嬉しく思っています。 楽しさを表現するのが大好きですし、私自身も少し生意気だったり、笑顔にさせてくれるようなアートに惹きつけられます。
実生活では、時々少し内気になったり、自信が持てないこともありますが、なぜかオンライン上でユーモアやアイデアを共有したり、身体をマニキンとして使ったりすることに抵抗がなく、むしろ自信が持てます。
物理的なアートを通してアイデアを表現する方法を学んだことで、自分の中の何かが本当に解放されたように感じます。 言葉では常に自分の考えを完璧に説明できるわけではないのですが、作品の方が上手く伝えてくれる気さえします。
「活動家」という言葉を耳にすると、デモや演説を通じて訴える人たちの姿を思い浮かべると思いますが、その一方で、マクラフリンさんの作品はアートを通してのアクティビズムを体現しているように感じ取れます。ご自身をアクティビストだと考えますか?
自分たちが心から大切に思うものに対して声を上げることは、誰にとっても大切なことにするべきだと思います。個人的には、作品作りを通して自分自身の「声上げ」を見つけました。作品は楽しくて軽い雰囲気ですが、その奥にあるメッセージと一貫したテーマは「サステナビリティの提唱」です。人々が洋服を直したり、新しい姿を与えたりする権利と機会があることを伝えるための作品なのです。
長年にわたって(少なくとも米国では)衣料品や靴の企業は、消費者が壊れたものを修理する方法を知らないように仕向けてきたように感じます。修理が難しすぎると思わせるために、修理プロセスを隠蔽してきたのです。おそらく消費者に新しいものを買い続けさせるためです。
修理するのは実はそれほど難しくないですし、時間もそこまでかかることではないので、とても腹立たしいことです。修理をすれば節約にもなり、不用品を埋め立て地に送ることも防げます。捨てるのではなく、修理するスキルを身につけ、修理方法を教わることはとても価値があると思っています。
大手企業と一般消費者の間の仲介役を担っている気がします。ブランドは私に生産プロセスや知見を共有してくれているので、得た情報をより多くの人にわかりやすく伝えること、業界内の現状を伝えることが私の責任だと考えています。
過去のインタビューを通じて、ブランドとのコラボレーションを通じて、デッドストックや過剰在庫を活用する可能性を示唆している様子に刺激を受けました。ファッション企業に多くの知識を共有されていますが、逆に企業側から学ぶこともありますか?
あるブランドとコラボレーションをする機会があるたびに、廃棄物の大量再利用に関するさらなるデータ収集ができます。
私のアトリエでは、使えないとみなされた素材を使って一点物の作品を制作しています。大量生産をする余裕なんてありませんですし、大量生産をすることをあえて計画していないです。一点物の作品には特別な価値があり、世の中に同じものが複数存在しないということも魅力の一つなので。
とはいえ、大企業が私の制作方法を活用してもらうことが、私の一つのミッションになっています。アップサイクルが大量生産しづらい理由を、彼らと一緒に理解していくことはとても貴重な経験です。製品のライフサイクル全体を把握することで、私の倫理観がどこで役立てる可能性があるのか、特定しやすくなります。
最近学んでいることの多くは、分解を考慮した設計や工場で簡単に分解できるものの作り方です。パーツが少なく、使用する素材の種類が少ないほど、後々分解しやすくなります。理論上はシンプルですが、必ずしも実践されているわけではありません。特に靴など多くの製品は、様々な部品で構成されており、分解するのにかかる時間とコストを正当化できない企業がほとんどです。最近では、分解プロセスを効率化する方法や、モノマテリアルの可能性についても探求しています。
ワークショップを開催したり、デザインリソースを若者に提供する非営利団体を設立したりと、熱心にスキルや知識の伝承活動を行っていらっしゃいますが、教育活動はご自身にとって重要ですか?
私にとっては教育は現在も今後もとても重要な軸として考えていくと思います。キャリアがどこへ向かおうとも、人々に教えることを通して自分の使命を見出している気がします。いつか大学で教えることも考えられる選択肢ですし、ワークショップや実践的な制作体験を提供する自分自身の「学校」を持つことも夢見ています。

仕事中やプライベートでどのような音楽を聴かれているのかが気になります。お気に入りの曲を教えてもらえますか?
長距離のバス/電車に乗っている時は、このような テクノ・ハウスのミックスを良く聴いています。
Reebokに勤めていた頃、中国やベトナムの工場視察のために、よく長時間のバス移動をしていました。当時は空港から工場まで4~6時間ほどのバス移動だったのですが、その頃 (2016~2018 年) はテクノをよく聴いていました。そのため、今でも長距離のバスや電車に乗ると、あの頃のことが懐かしくなって、ついこのような テクノのミックスを流しちゃいます。
仕事中はよくハウスをかけています。集中力が高まるんですよね。
日本のデザイナーや文化で、ご自身の仕事にインスピレーションを与えたものはありますか?
たくさんあります!日本に行くのは大好きですね。日本の雑誌、ストリートスタイル、マウンテンスタイル、ビデオゲームなどからたくさんのインスピレーションをもらっています。
日本のデザインはすごく考え抜かれている印象です。実用的なデザインが大好きなので、そこから多くのインスピレーションをもらっています。といいつつも、同時に珍道具といった、一見使えそうな見た目なのに、実際は実用性がとても低いユーモアたっぷりの道具の文化もとても魅力的です。
いつか and wander と一緒に仕事がしてみたいです!アウトドアと自然が大好きで、彼らはずっと前から影響を受け続けているブランドなんです!
マクラフリンさんの作品を通じて、イラリア・ビアンキ(Ilaria Blanchi)さんのロンドンの街並みで拾った廃材を使って家具を作った「Castaway Furniture」を彷彿とさせることがあるのですが、家具のようなより大きなスケールもしくは新しいフォーマットやメディアの作品を作ることに興味はありますか?
凄い素敵なリファレンスですね!もちろんです!ファッション以外の分野にも作品を広げる方法を探していて、家具やインテリア、生活用品といった異なるメディアにも応用しています。
実は裏では、木工やはんだ付けなどの新しいスキルも習得しているところです。こういったスキルを身につけることで、扱いが難しい素材にも挑戦でき、表現の幅を広げられると思っています。
少し変わった質問かもしれませんが、とても気になるので、聞かせてください。アップサイクルという制約を外して、完全にゼロから新しいものを作る衝動に駆られることはないのですか?
最高な質問ですね(笑)意外と今まで聞かれたことがありませんでした。
正直に言うと、あまりないですね。まっさらな生地を見ても、ポケットやファスナー、穴や破れがあるものを見る時と同じようなインスピレーションは湧いてきません。多分、何かを再構築するというチャレンジに夢中になっているんだと思います。既存の衣類や素材が持っている物語が大好きで、最初から作るのとは全く違うインスピレーションが湧いてこないんです。
現在最終段階にある新作について少しだけ教えてもらえますか?
今年後半に、アップサイクルを大規模に推し進めることができたコラボレーションがリリースされる予定です!学びが大変多かったプロジェクトなので、私も発表がとても楽しみです!
Nicole McLaughlin: Web / Instagram
Interviewer: Tsukasa Tanimoto