Interview: Ben Ganz -PIN-UPは実験室-

Interview: Ben Ganz -PIN-UPは実験室-

ベン・ガンツ(Ben Ganz) は、PIN-UPの現アートディレクターであり、ニューヨークを拠点とするデザインスタジオOffice Ben Ganzのファウンダーです。その編集の創造性とグラフィックの革新を融合させ、PIN-UPを実験的でラディカルなアイデアを発信するプラットフォームに変えています。建築、グラフィックデザイン、タイポグラフィを交わらせ、印象的でどこか考えさせられる作品を生み出しています。ヨーロッパやアメリカでデザインを学び、コラボレーションを通じたモノ作りを行う彼の活動は、雑誌や自身のプロジェクトを通じて現代デザインの境界を広げ続けています。

PIN-UPのクリエイティブディレクターとしてどの様な仕事をしていますか?また、その中で、チームとしてコンテンツ作りをする中で心がけている事はありますか?

PIN-UPは年に2回しか発行されないため、本当にやりたいことをするためのクリエイティブで自由な時間があります。Office Ben Ganzのメンバー、そしてPIN-UP内の編集チームとのコラボレーションにより毎回コンテンツは生み出されています。また、創設者であるフェリックス・ブルリヒター(Felix Burrichter) と直接協力しています。メンバーがそもそも少ないため、実際のプロセスは迅速に進むやすく、革新的な物が生まれるんだと思います。

クリエイティビティを重要とした決断を行うというのは良い雑誌を作るために必要だと思います。そうでなければ、雑誌のコンテンツとそれを表現するグラフィックの関係性が崩れてしまいます。そのため、最初に決定するコンセプトを包括的なアプローチで考えるのは非常に重要であり、私たちはそれを深く考えています。

PIN-UPのグラフィックはどのような意識でデザインされてるのでしょうか。

PIN-UPは素晴らしい実績を持つ雑誌であり、過去18年間という独立系雑誌としては非常に長い期間にわたり進化し続けてきた事をとてもリスペクトしています。創業者のフェリックスの編集への姿勢は素晴らしく、他の人々が自分のアイデアを出して、デザインへ反映させる余白を作ってくれています。それがこの雑誌が残り続けている理由の一つだと考えます。

フェリックスは私のやりたいことを信頼してくれているので、過去のPIN-UPのデザインやデザイナーの考えとは異なるアプローチを取っています。例えば、ビジュアル言語を少し派手にしています。以前の表紙は最後にデザインされていましたが、私は常に最初に納得できる表紙を作ります。また、年に2回のみの発行であるため、一般的な雑誌と比べて準備期間が長く、デザインをより探求できます。各号に新しい書体を作り、いろいろな印刷や仕上げの方法を取り入れることで、写真にも影響を与えています。これはこの雑誌ならではの側面です。

PIN-UPの仕事と自身のスタジオプロジェクトのバランスをどう取っていますか?

PIN-UPの仕事は非常に重要ですが、私のスタジオでは他にもいくつかのクライアントのプロジェクトを手掛けています。仕事はほぼ並行して進めているので、一緒に働くチームの存在が不可欠です。私にとってPIN-UPはある意味実験室のようなもので、新しい作品や才能に触れたり、さまざまな試みをする場と捉えています。実際、そこでの発見が他のプロジェクトに影響を与えることもあり、その逆もあります。建築やデザインの世界で起きていることに非常に関心があるので、雑誌の内容を毎回読みながらデザインすることは、大きな学びの機会になっています。



HOMER CAMPAIGN 2021 / CREATIVE DIRECTION, SET DESIGN COLLABORATORS: FRANK OCEAN, MICHAEL ABEL PHOTOGRAPHY: TYRONE LEBON

 

HOMER PLUS PENDANT & SCARF JEWELLERY DESIGN, ARTWORK / COLLABORATORS: FRANK OCEAN, MICHAEL ABEL PHOTOGRAPHY: MAXIME GUYON





NIKE GLOBAL 2022 CAMPAIGN CREATIVE DIRECTION, DESIGN / COLLABORATORS: CHANDELIER CREATIVE, MICHAEL SCANLON

 

PIN-UP HOMEはどのように始まりましたか?これまでのコラボレーションについても教えてください。

PIN-UP HOMEは、私とビジネスマネージャーのクリステン、そしてフェリックスによって始まりました。雑誌の編集者ならではのアプローチでオブジェクトを作り、コレクションごとにキャンペーンや写真撮影を行っています。その意味では、このプロジェクトはPIN-UPにとって実験的な場であり、コラボレーションを通して既存のプロダクトに新しい視点を加れる可能性のあるものだと思ってます。そうすることで、一点ものを作るよりも面白いオブジェクトが生まれると感じます。

このプロジェクトでは、まずアイデアから始まり、それを実現するための適切なパートナーを見つけることが多いです。その中で、スイスの家具メーカーのUSMとのコラボレーションをしました。ベルンで育ち、子供の頃からUSMの家具に囲まれていたので、まるでルーツに戻るような感覚でした。スイスでは、USMの家具は至るところにあります。街の薬局、法律事務所、公共施設などで使われていて、まるで建築のように街の一部として存在しています。その背景から、このコラボレーションでは既存のデザインを生かすことが重要であり、ニューヨークの生活を反映した可動性のあるハイブリッドな家具のシリーズを作りました。USMの伝統的なシステムに遊び心と装飾的な要素を加えたこのシリーズは、PIN-UP HOMEの中でも特に気に入ってる作品の一つです。

USM NYC by BEN GANZ

 

ベルリンで育ったとの事ですが、どの様な家庭で育ちましたか?

私の両親はどちらも教師で、父は熱心なピアニストです。音楽やクリエイティブな事にとても関心があり、私がデザインの道を歩むことを応援してくれました。

その後、ヨーロッパとアメリカで学んで働いた経験について教えてください。

最初はルツェルンの大学で伝統的な活版印刷を学びました。その後、ベルリンのNeubauというグラフィックデザインスタジオで数年間働きました。そこではベルリンの四季をテーマにした本のデザインに関わるなど、20代前半にこの経験ができたのはとても貴重でした。その後、デザインをもっと学びたくてアメリカのイェール美術学校に進学しました。当時ディレクターであったシーラ・レヴラント・ド・ブレットヴィルから大きく影響を受けました。これらの経験を通じて、スイスのある種伝統的なデザインとアメリカのポップカルチャーを融合させ、現在の自分のスタイルになったのだと感じます。

日本のアートやデザイン文化についてどう思いますか?

これまでに日本に何度か訪れていますが、主に東京に行っています。日本のプロダクトデザインやグラフィックデザインの長い歴史には非常に感銘を受けています。その精細さ、独自のデザインに対して尊敬しています。日本のグラフィックデザインはスイスのデザインと同じように、視覚的な制約の中で作り出される姿勢があると感じます。以前出版社のLars Mullerと仕事をした時、彼が見せてくれた原研哉の本は非常に刺激的でした。彼は無印良品やさまざまなクライアントのためのグラフィックデザインだけでなく、アートディレクションやプロダクトデザインまでも手がけており、そのデザインの幅広さに共感を覚えました。

将来的に日本のアーティスト、デザイナー、またはブランドとコラボレーションしたいと思いますか?


機会があればぜひしてみたいです。いつか日本の色々な地域に行き、陶芸などのさまざまな工芸品を見てみたいです。そこで重要なのは、コラボレーションができるプロジェクトを見つけることだと思います。日本の文化やクラフトにはすでに素晴らしい価値があるので、それを尊重する形で新しい視点を加えることができればと思います。単なる再解釈ではなく、何か新しい要素を加えることで、より持続可能なモノ作りを創造することが大切だと思います。

Ben Ganz 

PRADA RESORT 2020 CAMPAIGN / ART DIRECTION, DESIGN CREATIVE DIRECTOR: FERDINANDO VERDERI / PHOTOGRAPHY: KEIZO KITAJIMA & DREW VICKERS ART DIRECTION: BEN GANZ, DANIEL SUMARNA

 

今後のプロジェクトについて教えてください。

現在、次号のPIN-UPといくつかのPIN-UP HOMEプロジェクトに取り組んでおり、これらは来年初めにリリース予定です。今後はペンやカトラリーセットなど、小物類も取り入れていきたいと考えています。また、ニューヨークのSoHoに新しいスタジオを構える予定で、まだ改装中で長いプロセスですがとても大事なプロジェクトの一つです。そこでは我々のデザインやインスピレーションになるモノを一箇所に集めることで、仕事の進め方をを変えていきたいと思っています。またクーパー・ヒューイットのトリエンナーレの開催もあるので、それのビジュアルイメージとデザインも手がけています。

New Scaleではクリエイターに影響を与える音楽を特集していますが、最近お気に入りの曲があれば是非教えてください。

作業中はデザインに集中できるように、バックグラウンドで音楽を聴くのが好きです。特にKoudlamのアルバム「Precipice Fantasy」やアーサー・ラッセルの曲は最近のお気に入りです。 

Ben Ganz
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PIN-UP

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Interviewer

Yusho Nishioka

サウンド、静寂、喜びの極致。

音楽に没入する。自分だけの静寂な世界に浸る。どんな楽しみも思いのままに。サウンドからデザインまで、深さ、ディティールそして喜びを極めたBeoplay H95。