
Interview: Infrastructure Studio -多分野に広がる境界なきデザイン-
インフラストラクチャー・スタジオ(Infrastructure Studio)は、2019年に兄弟であるマセオ(Macéo)とアーサー(Arthur)によって設立され、パリでの学業中に実験的なサイドプロジェクトとして始まりました。建築とファッションデザインのバックグラウンドを持ち、プロダクトデザイン、舞台美術、ファッションといった幅広い分野にまたがるアプローチを取り入れています。彼らのデザインは、パリの都市的な環境から大きく影響を受けており、伝統的なクラフトと3Dプリンティングなどの最新技術を組み合わせています。従来の境界に挑戦し、現代デザインに新しい視点を提供するその活動についてインタビューを行いました。
スタジオの活動を始める事になったきっかけや、お二人のバックグラウンドについて教えてください。
Infrastructure Studioは、2019年に大学在学中に個人プロジェクトとしてスタートしました。最初は具体的な将来の計画はなく、学外で実験的な創造活動を展開するための場を作ることが目的でした。
私たちはパリの郊外で育ち、多文化が交わる場所で社会的に豊かな多様性の中で成長しました。振り返ると、その経験や文化的な影響が、現在の私たちの美意識やデザインへのアプローチに大きく影響を与えていると感じます。都市の風景や素材、建築への関心は、次第に強くなっていきました。大学では、マセオはパリ・ヴァル・ド・セーヌ国立建築学校で建築を、アルチュールはパリのデュプレ美術学校でファッションデザインを学びました。それぞれの専門分野で培った知識と経験が融合し、ジャンルの枠を超えた多分野的なアプローチへと発展していきました。

お二人の作品は、インテリアの小物や家具のデザイン、さらには舞台美術からファッションまでと多岐にわたりますが、これらはどのようにバランスを取っていますか?
私たちの作品は、それぞれの興味や関心から生まれています。お互いに異なるスキルを持ち、それが互いに補完し合っています。異なる分野のバランスを取るために、共通点やつながりを見つけ出すことを心がけています。
たとえば、小物や家具のデザインにおいても、ファッション作品を作る際に使う要素からインスピレーションを得ることがあります。また、その時々に心惹かれたディテールを集めてサンプリングし、そこから作品に活かせる要素を見つけ出しています。こうしたプロセスを通じて、ジャンルを超えた統一感のある美的要素をさまざまな形で表現しています。


作品によっては3Dプリントなどの現代の技術を取り入れていますが、手仕事の要素も職人技を維持しながらどのようにプロジェクトに取り入れていますか?
CADや3Dプリンティングといった技術を活用し、さまざまなスケールでプロトタイプを作成する一方で、手仕事の要素や素材の質も大切にしています。これらの技術は、アイデアを正確に視覚化してテストする手段であり、時にはそのまま製品化されることもあります。しかし、これらの技術はあくまで初期段階のツールに過ぎず、最終的な目標は実際に物を作り上げることにあります。そして、作品の製作過程はそれぞれのものによって違います。例えば、Fragment 001ベンチは大量生産された自動車部品に着想を得ていますが、木材を使い手作業で仕上げることで、彫刻のような独特の作品に仕上げています。こうした二重の意味をもつ作品を作ることで、新たな価値観を生み出せると感じています。

Infrastructure Studioがデザインする衣服には独自の機能美があり、その多くが衣服の原型を再定義しているように見受けられます。これらのデザインは、素材や形状の実験から生み出されたものですか?
はい、その通りです。服の機能性に興味があり、スポーツウェアやミリタリーアーカイブからインスピレーションを得ています。既存の服の原型を出発点にして、それを白紙のキャンバスのように捉えながらデザインしています。いろんな素材や形を使った実験を重ねて、現代のファッションに合った服を作り上げています。多くの実験は、デジタルソフトを使ってパターンを作成することで実現しています。さらに、3Dモデリングを使うことで、身体に彫刻するような感覚で、素早くデザインを形にすることができます。
尊敬しているクリエイターや、影響を受けた人はいますか?
様々な分野からインスピレーションを受けています。例えば、1970年代のアメリカ美術で重要な存在だったゴードン・マッタ=クラーク。彼のラディカルな彫刻のアプローチからは大きく影響を受けています。建物を大胆に切り取る「ビルディング・カット」と呼ばれるシリーズでは、建築と現代アートの境界を曖昧にし、観る者に新しい視点を提供しました。
また、モハメド・ブルイサの作品も強い影響を与えてくれています。彼は社会を鋭く洞察し、公共の声を持たない人々に焦点を当てる作品を作り出しています。特に最近のパリのパレ・ド・トーキョーでの展示には特に感動しました。
もちろん、他にも多くのアーティストや建築家からインスピレーションを得ています。例えば、建築家の安藤忠雄、ミース・ファン・デル・ローエ、レム・コールハースや、ファッションデザイナーのサミュエル・ロス、クレイグ・グリーン、マッシモ・オスティなど、彼らの影響も非常に大きいです。
デザインプロセスにAIや先進技術を取り入れることについて、どのようにお考えですか?
現時点ではAIを使うことはまだ少ないですが、AIや先進技術が急速に進化している事もあり、これからはもっと活用したいと考えています。このような技術により、創造力を高め、作業を効率化し、新しいデザインの可能性を探ることができると感じています。これから技術がさらに進んでいく中で、イノベーションの最前線に立つために積極的に取り入れていくつもりです。
今後のプロジェクトやコラボレーションで、楽しみにしているものはありますか?
現在進行中のプロジェクトとしては、「Fragment」シリーズを拡充するための新しい家具の提案を進めています。また、9月に開催されるパリのデザインウィークでは、過去の作品を展示する予定です。さらに、新たに洋服のラインも手がけています。このプロジェクトには時間をかけていますが、長く愛されるデザインで、自分たちが本当に誇れるものを作りたいと考えています。

普段はどのような音楽を愉しんでいますか?
音楽は日常生活に大きな影響を与えています。これまでさまざまなジャンルを聴いてきましたが、特に長く聴き続けているのはラップです。フランスには、ラップを他のジャンルと融合させて新しいスタイルを生み出している魅力的なアーティストが多くいます。その変幻自在さや、常に進化し続けるところに惹かれています。
Interviewer
Yusho Nishioka